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新潟地方裁判所 昭和31年(わ)84号 判決

被告人 津野陽太郎

昭三・七・二八生 株式会社電友舎技術主任

菅井辰雄

昭三・一二・一六生 電気工事従業者

村山昇

昭三・一・四生 新潟県土木部建築課技師

主文

被告人津野陽太郎、同村山昇を各禁錮六月に、

被告人菅井辰雄を禁錮四月に

各処する。

但し、各被告人に対し本裁判確定の日から三年間右各刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人等の均分負担とする。

理由

(被告人等の職歴及び地位)

被告人津野陽太郎は、昭和二十五年三月日本大学専門部電気科を卒業し、第二種主任技術者の資格を取得し、同年五月新潟県電気工事協同組合村上支部に勤務し、昭和二十八年二月新潟市学校裏町十六番地に本店を有し電気工事請負業等を営業目的とする株式会社電友舎に勤務し、その技術主任として各種電気工事の設計、指揮、監督等の業務に従事していたもの、被告人菅井辰雄は、昭和二十四年頃から電気工事店に勤め電気工事に従事していたが、昭和二十九年一月右電友舎に勤務し、被告人津野陽太郎の指揮監督の下に各種電気工事に従事していたもの、被告人村山昇は、昭和二十三年三月長岡工業専門学校電気科を卒業し、第二種主任技術者の資格を取得し、昭和二十四年十月新潟県土木部営繕課(昭和三十年八月一日機構改革により同部建築課に統合された)に勤務し、昭和二十六年三月同県技師となり、電気技術者として県有建築物の電気工事につきその設計、監督、検査等の業務に従事していたものである。

(外灯取付工事の経緯)

たまたま、昭和二十九年十二月中旬、新潟市医学町通二番町三十六番地の十二所在新潟県庁第三分館本館(通称教育庁)内に盗難事故が発生したため、同館守衛の間に盗難を予防し看視の便を図るため、右分館各建物に外灯を増設されたい旨の要望が起り、同月二十三日頃同庁秘書課長から土木部営繕課長宛右の申入がなされ、右第三分館本館の東側及び西側、本館北側平屋建建物(通称地方労働委員会事務室)の南側、同建物の北側平屋建建物(通称統計分室)の北側及び南側に各一灯宛外灯を設置することとなり、被告人村山昇において右外灯増設工事の設計、監督及び竣工検査を担当することとなつたので、同被告人は、先ず工事が小額工事でありかつ急速を要するので、上司と相談した上、随意契約によつて前記電友舎に請け負わせることとし、被告人津野陽太郎に対し、外灯の取付場所、配線方法等の工事内容を示してその見積を依頼し、昭和三十年一月十日頃同被告人から見積書の提出を受けたので、これを検討し、点滅方法等設計の一部に変更を加え、上司の諒解を得、被告人津野陽太郎に対し工事の着手方を指示したので、同被告人は、被告人菅井辰雄外一名に対し、A型ブラケツト(昭和三一年地領第六四号の八一)を使用して右工事を施行するよう指示することとなつた。

(第三分館本館の壁及び外灯用ブラケツトの構造)

右第三分館本館は木造二階建建物で、その外壁はワイヤラス張りモルタル壁(前同号の三)、即ち四寸角の柱の中間に巾四寸厚さ約一寸二分位の間柱三本を立て、その外側に厚さ約四分、巾二寸乃至三寸、長さ六尺又は十二尺の杉の荒木(いわゆる木ずり)を二、三寸間隔に、土台上から軒裏まで一面に打ちつけ、その上にアスフアルトを滲み込ませた黒色の防水用紙(いわゆるアスフアルトフエルト紙)を窓、換気孔、出入口等を除く木部全部に一面に張りめぐらし、これを長さ約二・七センチメートル、径約三・一センチメートルのステープルというU字型の釘をもつて木ずり、柱、間柱等にとめ、さらに直径約一ミリメートルの半鋼鉄線を一辺約三センチメートルの菱型の網の目様に編んだ巾約六尺、長さ約十二尺のいわゆるワイヤラスを、後記モルタルに亀裂を生じないよう、その接ぎ目においては約一目重ね合わせてアスフアルトフエルト紙の上に一面に張りめぐらし、ステープルをもつて約三十センチメートル乃至四十五センチメートルの間隔に前同様とめ、さらにその上に、ラスを固定しモルタルの落下を防ぐため、直径約三ミリメートルの鉄線(いわゆる力骨)を縦横約五十センチメートルの間隔にステープルをもつて前同様とめ、その上にセメントと砂と水を混合したいわゆるモルタルを厚さ約二乃至三センチメートルに塗り、スプレーガン仕上をしたものであり、その内壁は、柱及び間柱の内側に前同様木ずりを打ちつけ、厚さ約六分の漆喰塗を施したもので、外壁と内壁との間は空洞をなし、筋違及び胴差により斜及び水平に区切られており、外灯用A型ブラケツトは、直径約一・五センチメートル、長さ約二十二センチメートルの彎曲した鉄製腕管が、三本脚の鉄製脚部と陶磁器製の外殼を有するソケツトを収めたニユーム鋳物製の頭部にそれぞれ捻込式で接続し、さらにその先端に直径約二十六センチメートルのニユーム製の笠を取りつけ、右腕管内に約一・二ミリメートルの絶縁電線二本を通したもので、右電線をソケツトに接続する止めねじとソケツトを覆つている鋳物製頭部の内面、及びそこに捻じ込まれている腕管の先端との間隔が少く、又風によつて壊れ易い構造を有していた。

(罪となるべき事実)

そこで、右のような構造を有する外灯用ブラケツトを、ねじ釘を用いて、前記のようなラス張りモルタル壁に、ねじ釘が木質部に達するよう捻じ込んで取りつけるのであるから、漫然ねじ釘を差し込むときは、ねじ釘がワイヤラス又はステープル等に接触するか又は極めて接近し、ブラケツト内の電線からブラケツトの金属製部分へ漏電した場合には、地絡電流が右の接触又は接近個所を通つてワイヤラスに流入して発熱し、そのためアスフアルトフエルト紙及び木質部が発火して火災を生ずる虞があり、かかる場合直接ブラケツトの取付工事に当る被告人菅井辰雄は、右ブラケツトの脚部を固定するねじ釘がワイヤラス等に接触又は極めて接近しないよう、外壁に木台を取りつけ、その上にブラケツトの脚部を固定させるか又はブラケツトの金属製部分を接地させ、或いは又ブラケツト脚部附近のワイヤラスを切り取るなど適宜の方法により、ブラケツトの金属製部分がワイヤラス等と電気的に接続しないよう工事し、もつて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があり、右工事の見積、監督及び引渡に当る被告人津野陽太郎は、右のようにブラケツトの脚部を固定するねじ釘がワイヤラス等に接触又は極めて接近し、そのためブラケツトの金属製部分とワイヤラス等が電気的に接続することがないよう必要な工事の見積をなし、かつ被告人菅井辰雄が工事をするに際しては、事実右のようにブラケツトを取りつけるよう指揮監督し、さらに工事終了後はこれを確認し、もし右のように工事がなされていない場合にはいわゆる手直しを命じ、ブラケツトの金属製部分がワイヤラス等に電気的に接続しないよう修繕させ、もつて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があり、右工事の設計、監督及び竣工検査に当る被告人村山昇は、右のようにブラケツトの脚部を固定するねじ釘がワイヤラス等に接触又は極めて接近し、ブラケツトの金属製部分がワイヤラス等に電気的に接続することがないよう必要な工事の設計をなし、かつ被告人菅井辰雄が工事をなすに際しては、事実右のようにブラケツトを取りつけるよう指揮監督し、さらに工事竣工後その引渡を受けるに当つてはこれを確認し、もし右のように工事が行われていないときはいわゆる手直しを命じ、ブラケツトの金属製部分とワイヤラス等が電気的に接続しないよう修繕させ、もつて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるにもかゝわらず、同月十三日頃、右第三分館本館西側外壁にA型ブラケツト(前同号の一一)を取りつけるに際し、被告人菅井辰雄は、同所二階中央窓北寄二尺位の場所にジヤンピング(前同号の三三及び五一)をもつて、直径約三分五厘の穴三個をあけ、その穴の周囲について、単に、ワイヤラスの有無を瞥見したのみで、ラスが見当らなかつたところから、不注意にも、ねじ釘とワイヤラスとが電気的に接続することがないものと軽信し、ブラケツトの脚部に木台を使用せず又その金属製部分を接地させるなどの絶縁方法をとらず、ブラケツト脚部の穴を右三個の穴にあわせ、二吋(約五・八センチメートル)の鉄製木ねじ三本(前同号の一一及び二〇)をもつて、それぞれモルタル、ワイヤラス、アスフアルトフエルト紙を通して木ずりに捻じ込んで固定させ、腕管内の電線二本を、予めその附近上方に、金属製コンジエツトパイプ(前同号の五二)をもつて、二階天井裏から屋側配線してあつた一・六ミリ電線に接続させて外灯を取りつけ、被告人津野陽太郎は、不注意にも、前記注意義務を怠り、漫然ラス張りモルタル壁に直接ブラケツトを取りつける工事方法の見積をなし、又被告人菅井辰雄がブラケツトを取りつけるに際しては、現場において、単に、その取付場所を示し、配線方法として二階廊下灯からモルタル壁を貫通させてパイプ工事をすることを指示したのみで、ブラケツトの取付については脚部を固定するねじ釘がワイヤラス等と電気的に接続することがないよう絶縁措置を講ずることについてなんらの指揮監督をなさず、かつ工事終了後現場に出向いたが、単に外部よりこれを見たのみで、絶縁措置を講じてあるかどうかの確認をなさず、被告人村山昇に工事竣工の連絡をなし、被告人村山昇は、不注意にも、前記注意義務を怠り、漫然ブラケツトの金属製部分がワイヤラス等と電気的に接続することにつきなんらの考慮を払わず、モルタル壁に直接ブラケツトを取りつける工事設計をなし、又その監督については、現場において、単に廊下灯と外灯との一括点滅のため二階廊下灯から配線するよう指示したのみで、工事中現場に出向いた際も単に工事が行われているかどうかを見ただけで、ブラケツトの脚部とワイヤラス等との絶縁措置についてなんらの指揮監督をなさず、かつ工事終了後被告人津野陽太郎からこれが引渡を受けるに際し、単に予定の場所に取りつけられたかどうかを外部より見たのみで、絶縁措置について確認しなかつた結果、右被告人等三名の過失により、前記ブラケツトの脚部に捻じ込んだねじ釘中の一本がワイヤラスに接触又は極めて接近していたため、同年九月三十日夜、折柄瞬間風速二十メートルを超える強風が吹くに及んで、ブラケツトの腕管内の電線がソケツト側末端附近で、同腕管のソケツト側先端に接触して漏電し、地絡電流が右腕管から脚部及びねじ釘を経てワイヤラスに流入し、右ねじ釘とワイヤラスとの接触又は接近部分附近或いはワイヤラス中において、発熱現象を生じ、その高熱により、ワイヤラス内側のアスフアルトフエルト紙及び木ずり等の木質部分が発火し、火が附近壁内の空洞を燃え上り、翌十月一日午前三時頃、右第三分館本館西側の壁及び屋根裏附近に燃え移り、同建物(木造瓦葺二階建延坪三百十八坪八合)を全焼し、右強風に煽られて附近建物に延焼及び飛火して新潟市内中心部に及び、因つて人の現在し又は現に人の住居に使用する右第三分館本館及び住宅等合計九百七棟及び他人所有の現に人の住居に使用せず又は人の現在しない倉庫等合計三百二十八棟(これら建物に存在した備品什器等を含めて被害金額の総合計約四十六億円相当)を焼燬するに至らしめたものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人等の判示各所為は、いずれも刑法第百十七条ノ二前段、第百十六条第一項、罰金等臨時措置法第二条、第三条に該当するので、各被告人につき、所定刑中禁錮刑を選択し、右刑期範囲内で、被告人津野陽太郎及び同村山昇を各禁錮六月に、被告人菅井辰雄を禁錮四月に処し、なお諸般の情状により同法第二十五条第一項を適用して本裁判確定の日からいずれも三年間右各刑の執行を猶予することとし、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文を適用して被告人等の均分負担とする。

(弁護人の主張に対する判断)

一、弁護人は、本件ブラケツト取付工事は電気工作物規程第百五十五条に違反していないのみをならず、本件火災後改正追加された同規程第百三十九条ノ二にも違反していないから被告人等に注意義務違反はないと主張するが、本件ブラケツトがいわゆる電気器具に属し、電気工作物規程第百五十五条にいう金属管に該当せず、従つて本件工事が同条に違反していないことは所論のとおりであるが、凡そ電気工事人又は電気技術者たる者は、電気工事をなし又はこれを監督するに際しては、危険発生の虞なきことを確認した上工事又は監督に従事すべきことは条理上当然のことに属し、特に明文の存在を必要としないと解すべきであるから、本件ブラケツト取付工事が電気工作物規程第百五十五条に違反していないからといつて被告人等に注意義務違反なしということはできず、又電気工作物規程第百三十九条ノ二は、本件火災後の昭和三十年十一月十七日通産省令第六十号をもつて公布され、同年十二月一日、昭和三十二年三月三十一日までの猶予期間を置いて施行されたが、昭和三十二年三月二十三日同省令第八号第二条をもつて、現に施設してある電気工作物又は施設に着手した電気工作物についてはその適用を排除されたことは所論のとおりであるが、右は専ら省令施行の際の電気工作物施設者の経済的負担を顧慮し、施設者に対し所謂手直しを強いることなくその違反を追及しない趣旨に出たもので、電気工作物等の障害を防止しなければならない義務になんらの消長をきたすものではないと解すべきであるから、本件工事が現行規程第百三十九条ノ二に違反していないからといつて、この一事をもつて直ちに被告人等に注意義務違反なしとすることはできず、よつてこの点に関する弁護人の主張は前記認定を左右するに足りない。

二、次に、弁護人は、本件ブラケツトの頭部附近が異常な強風のため破損し、漏電することは全く予見不可能であり、かつ本件ブラケツト取付工事と同種の工事は世上多数存在し、業界の専門家すらこれを見逃していた程であるから、被告人等に先に認定したような絶縁措置を講ずることを期待することはできないと主張するが、本件ブラケツト取付工事に当つた被告人菅井辰雄は、ブラケツト取付用のねじ釘とワイヤラスとが接触すれば漏電事故を起す虞のあることを予め顧慮し、ねじ釘を差し込むべき三個の穴について一応ラスの有無を確かめたことは同人の第三十三回公判調書中の供述記載及び検察官に対する昭和三十年十一月十八日付供述調書によつて明らかであるから弁護人の主張事実については明らかに予見していたものというべく、又被告人津野陽太郎は電気工事会社の技術主任として被告人菅井辰雄の監督者の地位にあり、既に県庁から配布されていた電気工事共通仕様書にも目を通しており、本件工事に当つてはいわゆるパイプ工事を指示して配線させた事実に徴し又さらに同人の司法警察員に対する昭和三十年十一月十八日付及び検察官に対する同月十九日付各供述調書によれば、ブラケツト取付用のねじ釘とワイヤラスとが接触すれば発火する場合がありうることを知つていたと認められ、又被告人村山昇は県庁の電気技師として電気工事の設計、監督、検査等の業務に携り、本件工事に際しては、いわゆるパイプ工事につき電気工事共通仕様書及び電気工作物規程に準拠してラスと金属管との接触について十分考慮した跡が窺われるから、弁護人の主張事実についてはいずれも予見しうべかりしものというべく、この点に関する弁護人の主張は採用することができない。

三、次に、弁護人は、第三分館本館階段脇に設置されていた本件外灯点滅用のタンブラスイツチには三アンペアのヒユーズが入つていたものと推定し、引込電柱のケツチホールダー及び引込開閉器のヒユーズに銅線が入つていた事実並びに本件漏電が起つた際ワイヤラスの中を三十アンペアに近い電流が流れたとみる鑑定の結果を援用し、右タンブラスイツチのヒユーズにはなんらかの作為がなされていたため、本件漏電に先きだつて溶断しなかつたものというべく、従つて本件火災の主たる原因はブラケツトからの漏電というよりはむしろ右ヒユーズに存するとの疑があり、しかして被告人等は右タンブラスイツチにはなんら関知するところがなかつたから被告人等はいずれも責任がないものであると主張するのでこの点について考えるに、弁護人主張のタンブラスイツチには本件火災発生当時の電灯の電力量からみて三アンペア程度のヒユーズを用いれば十分であつたこと、しかして三アンペア程度のヒユーズを用いておれば、先ず右ヒユーズが溶断することによつて本件火災の発生を未然に防止し得た可能性が存在したことは所論のとおりであるが、証人深谷亀之助に対する証人尋問調書及び久保源四郎、渡辺彦太郎、荒川庄二郎(昭和三十年十二月二十一日付及び昭和三十一年二月二十二日付)、菅井辰雄(昭和三十年十二月一日付)、津野陽太郎(昭和三十年十二月一日及び昭和三十一年五月四日付)、村山昇(昭和三十年十二月三十日付及び昭和三十一年五月二日付)の検察官に対する各供述調書を綜合すれば、右タンブラスイツチは取付当時のヒユーズのない侭なんら手を加えられることなく本件火災によつて焼失したものか或いは又昭和二十七年頃ヒユーズを入れるスイツチに取り替えられたものか判然とせず、従つて右スイツチに果してヒユーズが入つていたかどうかについてはこれを明らかにすることはできないが、仮にヒユーズが入つていたものとすれば、右スイツチに並列してあつた階下廊下灯点滅用のスイツチには十アンペアのヒユーズが入つており、しかも県庁電気室においては常に十アンペアのヒユーズを備えて取り替えていたことが明らかで、他に本件タンブラスイツチに三アンペアのヒユーズが入つていたと推認すべきなんらの資料がなく、かつ山崎健成の司法警察員に対する供述調書及び県有建物電気施設災害予防検査関係綴によれば、検査の結果これらスイツチについて特に不良状態の報告がなされた跡がないので、右スイツチには十アンペアのヒユーズが入つていたものと推認することができ、しかして、一方、木村金造外一名、金原寿郎外一名、山崎貫三外一名、前田清三外一名作成の各鑑定書及び所見等を綜合すれば、本件漏電と全く同一条件の実験は不可能のことに属するから、漏電電流値は抵抗値の算定いかんにより一致せず、最低約五アンペアから最大約三十アンペアに至るまで大巾な数値を想定しうるに過ぎず、従つて右事実は本件火災発生に一の原因を与えたことの蓋然性を否定しえないに止まり、被告人等の本件外灯用ブラケツト取付工事が本件火災発生の原因であつたことは先に認定したとおり明らかなことであるから、仮にタンブラスイツチに適切なヒユーズを使用しなかつたが為に本件発火点より火災を生じたとしても、右は数個の火災発生原因が競合していたものというべく、果してそうだとすれば、競合する過失に対してはすべて刑事責任を問うて然るべきものであるから被告人等に刑事責任を負わしめるについてなんらの影響はなく、従つて本件火災発生の主たる原因がタンブラスイツチのヒユーズにあるとみ、被告人等に責任がないとする弁護人の主張は採用することができない。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 堀切順 井口浩二 土屋一英)

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